人事評価結果の主要な活用場面の一つは昇格判断でしょう。日本と同様な勤続年数に応じた、ほぼ自動的な昇進により管理者層が肥大化する傾向がベトナムでも見られます。従業員にとって、降格への示唆は離職勧告と同様となります。昇進判断は長期的な視点から戦略的に進めましょう。

人事評価結果の主要な活用場面の一つは昇格判断でしょう。日本と同様な勤続年数に応じた、ほぼ自動的な昇進により管理者層が肥大化する傾向がベトナムでも見られます。従業員にとって、降格への示唆は離職勧告と同様となります。昇進判断は長期的な視点から戦略的に進めましょう。

 

  • 勤続に応じた昇進は、日本独自の人事慣行

終身雇用・年功序列を特徴とする日本の人事慣行のもとでは、勤続年数に応じて、やや自動的に昇進が認められるのが一般的と思います。

こうした年功昇進の発想は日本独特のもので、諸外国と同様に職務主義発想のベトナムでは、他職務となる高位の職位に就く昇進は制度としては確立していません。職務主義においては、空きポストが生じた都度、内部もしくは外部から最もポストの要件に適した人材を選抜します。年中行事のように期初に昇進者が発表されるといった慣行は日本独自のものです。

毎年昇進候補者を選抜し昇進の機会を提供する日本的な人事慣行は、確かに従業員の勤続意欲や昇進ヘの期待に応えるうえで有効となりますが、選考のたがを緩め、必要以上の要員の昇進を認めてしまうと、年を追うにつれ、管理者層が肥大化してしまうこととなります。

 

  • 必要昇進者数をあらかじめ定め、昇進判断は計画的に

こうした管理層の肥大化を避けるうえでも、毎年の要員計画を立案し、昇進人数に歯止めをかけることをお勧めします。

ある程度事業の態様が読める3~5年先を見通し、必要な陣容に基づき、各年次毎に各職位の必要数を求めます。各年次には、必要な陣容と実体制を突き合わせ、許容昇進者数を求めることとなります。

許容数に余裕があるからと、実力の満たない従業員を動機づけ目的で昇進させてしまうことは避けましょう。昇進後に、やはり身の丈に合わなかったと降格を考えても、労働契約書に役職を明記している場合には、降格は労働法違反となりますし、従業員本人にとって降格の示唆は退職勧告と同じ意味を持ちます。

まじめに仕事に取り組んでいるし、素直に言うことも聞くからと、将来への期待を込めて昇進させてしまうのが、日本でもまま行われる昇進判断と思いますが、結果が身を結ばなかった場合には、会社・本人とも不幸な結果を迎えてしまいます。

 

  • 職位の満席状態に備えて

一方で、昇進に値する能力を持った人材だが、上位職に空席がなく昇進させられない、というのもよくある課題です。該当者の勤続意欲をそがないようにと、サブ…、代理…、シニア…等の職位を設けて昇進させるケースがよくみられますが、避けたいものです。実態として管理者層の肥大化を生じてしまいますし、昇進はすれど仕事の内容が変わらなければ、さほど勤続に向けた動機付けにはつながりません。

 

昇進させようにも上位の職位が埋まっている場合には、現在職位についている従業員と昇進候補者を比較し、どちらが将来を見据えて、該当職位につくべき人材かを英断する必要もあります。現職の従業員の降格や異動に備えては、労働法上の問題を避けるべく、労働契約書上に職位名を明記せず、また職位は手当てで処遇するなどの小手技も必要となります。

また、昇格候補といえるほどの実力はないものの、現職務に精通していて手放し難い人材が離職の気配を見せているため、昇進や昇給で勤続へ動機づけようとする場合もよくあります。職務への習熟には限界があり、生み出される成果が伸び悩む時期は自ずと訪れます。成果が高まらない中での勤続と昇給は、人件費予算を圧迫するとともに、昇進を期待する後人の道を塞ぐことにつながります。高離職率に頭を痛める人材状況のもと、代替者の育成も容易ではありませんが、あえて一定勤続年数後の流動を促す発想も管理者層の肥大化を避けるうえでは重要となります。個人に依存せずとも仕事の質が保たれる、仕事の標準化・仕組化も期待されます。

 

その他悩ましいのが、ベトナム進出時など、新規採用の要員で体制作りを進める場合です。勢い、体制図上の箱を埋めようと、実力の知れない人材を経歴書を頼りに箱に貼り付ける状況が見られます。この場合にも、一旦与えた職位を実力が知れた後に奪うのは困難となりますので、できるだけ空席は上位者の兼務とし、職位を与える場合にも仮の職位と位置付けるなど、後の体制再構築を想定した布陣構築をお勧めします。