90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済下の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感じられていましたが911テロで幕を開けた21世紀はむしろ第三のシナリオに向かっているように思えます。

90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済下の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感じられていましたが911テロで幕を開けた21世紀はむしろ第三のシナリオに向かっているように思えます

 

  • 現地頼みの人材の現地化

本社がベトナムの実情を理解してくれない」。筆者もひしひしと感じる現法経営の難しさです。

ともあれ、もとより安価で豊富な労働力が一番の売りのベトナムでは、現場の作業者・スタッフはベトナム人材を活用するのが常套手段ですし、文化や言語の異なるベトナムでは現場の管理者もベトナム人材を育成し、活用しなければ仕事は進みません。加えて、毎年10%の昇給圧力のかかるベトナムにて業績を維持・向上するには、ベトナム人材を育て、生産性を高めるとともに改善活動を進めて、昇給原資を確保する必要があります。更には事業の拡大に向けた新製品・サービスの投入、組織改編に向けては右腕となる上級管理者を育てないと前に進めません。

現地の苦労に本社も関心を示して欲しいところですが、こうして本社の関心の有無によらず、一定の現地化は現法主体で進みます。翻せば、現地化は現地法人の仕事と、本社も現地頼みにできるのかも知れません。

 

  • 多極化・多様化するビジネス環境

筆者が中学生の頃は、日本は加工貿易の国と教わっていました。その後、日本たたきとプラザ合意を経た急激な円高を受けて「需要のあるところで作る」海外生産が進みましたが、日本企業にとっての主要な海外市場は変わらず、欧米先進国でした。2000年前後にはBRICsやVISTAといった新興国が脚光を浴び、「世界の工場」と言われた中国を筆頭に、労働単価の安いところで作り、日本を含めた先進国に売るというモデルに変容しています。そして現在、中国は世界最大の市場となり、2国間・域内貿易協定の進展とともに、かつての欧米に加えて、中国・東南アジア・中東・インド・アフリカと市場の拡大が続いています。これまでは自由や平等といった比較的同じ価値観や文化を共有できた先進国が商売相手の中心でしたが、これからは多数のしかも特性の異なる地域を相手に販売のみならず生産を行うことが求められてきています。

2005年には「フラット化する世界」という本が話題を呼びました。確かに情報や製品、資本は国境を越えて自由に行き来するようになってきていますが、一方で経済圏の拡大は共産圏やイスラム圏、民族間の対立など、むしろ各国の文化や価値観、発展度合いの違いを浮き彫りにしている気がします。商圏の拡大は喜ばしい話でもありますが、一方で多極化・多様化するビジネス環境への対応が求められているのだと感じます。

 

  • 経営の現地化に踏み込みますか?

決済権限の制約があり、契約の仕方を相談させて欲しい」。ままいただくご相談です。本社主導の現法経営を指向されているのか、成長の機会として経営経験の少ない駐在員を意図して派遣しているためか、現法に権限を十分に移譲していないケースが見られます。

多極化・多様化する世界経済に挑むにあたり、現法主導の経営を指向するか、本社主導の経営を進めるかは大きな現法経営の分岐点となりましょう。本社主導であれば権限移譲の範囲は限定すべきとなりますし、現法主導となれば大幅な権限移譲がなければ機動的な経営はできません。ただし、現法主導の経営を進めるには十分に経営を担える人材を潤沢に育てる必要が出てきます。昨今の若手日本人材の海外志向の低さを見るに、自ずと現地人材の活用も考えざるを得なくなりましょう。また、異なる文化・価値観のもとにて主導的に経営を進めるうえでは、必ずしも日本人材が適材とも言えません。

現地化を特に意図せずとも、特に文化や言語が異なり、昇給率の高い途上国では、管理職レベルまでの現地化は現地主体で進みます。しかしながら、更に経営の現地化・自立化を指向するかは、本社の現法経営の指針次第となります。また、日本人材か現地人材かを問わず、会社の理念・方針に沿った経営人材の育成が求められる経営の現地化・自立化は、現法頼みというわけにもいかず、本社事業部・人事部・現法の三位一体での取り組みが必要となります。

ベトナムにてはマネージャクラスの上級管理者の育成は活況となってきました。そろそろ、経営の現地化まで踏み込むのか、更には現法主導の自立的な経営を指向するのか、議論すべき時期に来ているのかも知れません。