今年もベトナムでは最低賃金の改訂がありました。賃金水準の上昇と物価の安定で、年々上昇率は収まってきていますが、1990年代より大学卒の初任給が20万円代前後から変わらない日本の感覚でいると、ともすれば知らぬ間に利益が圧迫されているという状況にもなりかねません。

今年もベトナムでは最低賃金の改訂がありました。賃金水準の上昇と物価の安定で、年々上昇率は収まってきていますが、1990年代より大学卒の初任給が20万円代前後から変わらない日本の感覚でいると、ともすれば知らぬ間に利益が圧迫されているという状況にもなりかねません。

 

  • 日本のサラリーマン社会の常識が通用しないベトナム

日本では就業者に占める雇用者の割合は約90%にも及び、会社に勤め給与を得るというのが一般的に所得を得る方法で、平均給与や賞与と言った数値が、就業者全般の所得水準を表すように理解されます。

一方、戦後、市場開放からの歴史の浅いベトナムでは、現状でも就業者の75%は個人・自営業者が占めており、メディアが流す平均給与等の情報は、日本と異なり就業者全般の所得水準を表すものではありません。

2017年には、3000万円から7000万円するメルセデスベンツの最高級車マイバッハの新車がベトナムで150台売れ、東南アジアで一位となったとの報道もありました。当然のことながら、こうした超高級車を購入できる超富裕層は給与所得者ではなく、個人・自営業者となります。ベトナム人材にとっては、こうした超富裕層の個人・自営業者が羨望の的となり、就業者全般の給与水準を表さない平均給与情報には目もくれず、より高い給与を求めるようになります。

 

  • 日本より早い昇進スピードを期待するベトナム人材

2016年時点で、新任CEOの年齢の世界平均は53歳、日本は61歳で突出して高く、特に新興国は50歳で比較的若くしてCEOに就任しているとの調査結果があります。半ば定年後も働くことが当たり前となった日本では、定年を節目として役員への昇格を行っている様子が窺えます。

一方、ベトナムでは男性は60歳、女性は55歳にて文字通り定年退職することが一般的で、定年年齢が就業生活の終着点となります。つまりは、ベトナムで期待される昇進スピードは日本に比べて10年は早いとも言えましょう。

一般にも、ベトナム人材は概ね30歳前後でマネージャとなることを目指し、35歳前後までに独立するか継続勤務するかを判断し、継続して勤務する場合には40歳前後でジェネラルマネージャ、50歳前後で役員を目指すスピード感を期待していると感じられます。

昇給への圧力とも併せて、昇進スピードへの期待も日本とは異なることの理解が必要です。

 

  • ベトナム人従業員のキャリアをデザインする

こうした昇給・昇進へのベトナム人材からの圧力は、ともすると経験を積んだ人材を失いたくないがゆえに、求められるがままの昇給、部下なし管理職への昇進につながり、会社の利益を圧迫することにもなりかねません。

ベトナム人材が高い昇給と早い昇進を期待することを前提として、従業員のキャリアを明確にしておくことが期待されます。また、会社の成長に則した人件費率を維持するためには、キャリア設計に、昇進に時間がかかるベトナム人材をどこまで会社に引き留めるかの指針も組み込む必要があります。

若くして将来が期待されるベトナム人材にはいち早く昇給・昇進の機会を与え、昇給・昇進志向は強いが将来がそこまで見込めないベトナム人材には早めに警告を出す。そうした、人材経営の指針をキャリア設計の前提として打ち立てておきたいものです。

 

2009年の調査ですが、日本の労働分配率は先進4か国の中で最も高く(日:70.9%、独:68.5%、米:62,7%、英:61.6%)、よく言われる一億総中流社会を裏付けています。皆が貧しかった時代を終え、所得の差が広がるベトナムでは、いち早く先進国以上の所得を得ようとする人たちが頭角を現してきています。

日本的な、差を付けない、結果の平等に重きを置く人材経営はともすると、将来が期待される人材を自ら手放すことにもなりかねません。