筆者は、“ベトナムにおいてどのように人材経営を進めるか”について、日本の独自性とベトナムの特殊性の違いの観点から討議する、駐在員向けのセミナーを定期開催しています。組織成果を優先するなど、日本的経営の価値観や思想をどのようにベトナム人材に浸透させるかが主なテーマとなりますが、参加者の方よりは、「ベトナム人材には課題もあるが、日本人にも相当問題があるよ」とのコメントもままいただきます。

筆者は、“ベトナムにおいてどのように人材経営を進めるか”について、日本の独自性とベトナムの特殊性の違いの観点から討議する、駐在員向けのセミナーを定期開催しています。組織成果を優先するなど、日本的経営の価値観や思想をどのようにベトナム人材に浸透させるかが主なテーマとなりますが、参加者の方よりは、「ベトナム人材には課題もあるが、日本人にも相当問題があるよ」とのコメントもままいただきます。

 

  • 頼もしいベトナム人材

自身の考えや、伝統的なベトナムの仕事の仕方に固執する、孤立主義・形式主義傾向の強いベトナム人材には頭を痛めますが、そうした人材も採用時に選別すれば、日本的経営の思想になじむベトナム人材は、日々生じるトラブルにもへこたれない頼もしい人材です。

2018年の日本での新卒社員を「水族館のヤドカリ」と評する方もいます。周囲の空気や雰囲気に敏感で、将来のリスクを回避、身を守る傾向があるそうです。

もとより空気を読んだり、リスクを先読みしたりといったことは苦手なベトナム人材ですが、仕事がひっ迫した状況でも愚痴を言うこともなく、完遂に向けて時間を問わず働いてくれる、夜間や休日にても緊急時には電話連絡、対応してくれるなど、もの事が予定通りに進まないベトナムならではではありますが、価値観を共有できるベトナム人材の柔軟、熱意のある仕事ぶりは心強い限りです。

 

  • 伸びる人材は伸びる

ムリ・ムダ・ムラの研修を行った際など、「研修後に、従業員がムダ・ムダと言うようになった」などのコメントをいただくことがあります。日本と異なり、まだまだ新しい知識の吸収や活用にどん欲なベトナム人材は、育てがいのある存在です。

一方で、継続して人材育成の支援を続けている会社にては、新たな研修課題を与えられる毎に伸びていく人材と、なかなか理解が進まず、脱落してしまう人材の違いが際立ってきます。また、これまでは成長を見せていたものの、更に高度な課題にては成長の限界や現状への満足を見せてしまう人材も出てきます。

当たり前ですが、全ての人材が理想する姿に至るわけではありませんし、もとより全員がマネージャや経営陣に加われるわけでもありません。「全従業員の満足」とは言わずに「全従業員に機会を与える」と会社方針に掲げる会社もあります。従業員の過度な期待を避ける上でも、従業員の成長に応じて報いるといった方針は明言しておくべきかもしれません。

「2割のコア人材が会社を牽引する」とも言われます。会社の組織風土に沿わない人材を選別することは前提として、頼みとなるベトナム人材の中でも、次代を担う人材の選抜を行っていく必要はあるのでしょう。全ての従業員への成長の機会の平等な提供を通じて、伸びる人材はおのずと頭角を現していきます。

 

  • 成長への期待に沿って動機づける

高い離職に悩まされるベトナムにては、人材採用各社が実施する求職者アンケートで、「給与水準」が会社選択条件の一番にあがることに目が奪われがちです。伸びる人材の期待に応えるよう、能力や実績に対して相応の給与を支払うことは当然ですが、成長に限界がみられる人材の引き留めのための昇給は考えものです。

筆者が見る限り、伸びる人材は一定の給与水準に満足すれば、次の次元の満足を期待します。逆に言えば、いつまでも収入の欲求に囚われている人材については、果たして将来を期待できる人材となりうるかを吟味する必要を感じます。

伸びる人材は、まさにマズローが提唱した5段階の欲求のように、より高次の欲求に向けて動機づけられるように思われます。まずは第一次の欲求である「生存欲求」に始まり、自身の生活やその水準を維持するための給与を期待します。次いで、第二次の「安全欲求」に従い、職場の衛生や食事など、安心して働ける職場環境を求めます。働く上での条件が充足されると第三次の欲求である「所属欲求」と言われる、上司や同僚との人間関係など、居心地の良さや愛着を求めるようになります。そして伸びる人材は、自身の仕事ぶりが上司や同僚に認められ、会社業績に貢献していると実感できることで、第四次の欲求である「承認欲求」が満たされるます。更に、自身の意見や考えが尊重され、自身の仕事に自負心が持てる状況となると、第五次の欲求である「自己実現欲求」が満たされるようになります。

先の2割の人材が会社を牽引する考えに従えば、全ての人材に成長の機会は提供するものの、伸びる人材には更に高次の欲求を満たすよう機会を作り、また欲求に応えていく必要があるのでしょう。

 

自己実現欲求を満たしたベトナム人材には、更に経営人材となるべく胆力が期待されます。追い風に乗った会社の経営は気を楽にしていられますが、会社は必ずや逆風にも晒されるものです。我が毎として会社事業を捉える欲求が満たされれば、先の見えない苦しい状況に耐え・打破に向けて辛抱強く活動できるようになります。