ベトナム企業との付き合い方

ベトナムへの進出やベトナム市場の開拓のため、ベトナム企業との合弁や協業といった話題が絶えませんが、残念ながら成功例が聞こえてきません。筆者の経験からも、日本企業が一般に合弁先・提携先に期待する役割をベトナム企業に担ってもらうことには相当な困難を感じます。今回は筆者なりの経験から、ベトナム企業と付き合う上での落とし穴や心構えを考えてみたいと思います。

 

□「濡れ手で粟」「棚からぼた餅」がベトナムでの成功の常套手段

市場開放後2009年頃までは、今まで値段もつかなかった土地の使用権に高額な値段がつき、不動産バブルでベトナムが賑わいました。人脈や運が味方して、土地を転がして巨額の利益を得たり、ビルの建設資材の輸入で一儲けしたり、外資系企業の工場建設に土地を提供して株を得たりなど、高級外車を乗り回す成金層が生まれたのはこの頃からでしょう。

時折新聞報道では、フォーの人気屋台を昼夜にわたって運営して御殿を立てたなどの苦労人の美談も流れますが、多くの事業家や投資家は何の苦労もなく資金を得て、実経験もない部品工場などを儲け話に乗って経営しているのが実情です。

 

□ 日本企業を待ち構える落とし穴

こんな背景で生まれたベトナム人経営層ですので、日本的な「損して得を取る」「信用第一」といった経営心情に馴染みがないのも不思議ではありません。合弁や提携といった際に、事業パートナーとして対等の役割を期待してしまいがちですが、先方は悪意なく期待を裏切ってくれます。

  1. 汗はかかない

上記のようにビジネスに苦労がつきものという発想が薄いこともあり、商品の販売などを依頼しても、店頭にならべるだけだったり、業者に見せて買うか尋ねるだけで営業努力は期待できません。店に並べたり業者に見せて売れなければ、「売れなかった」で終わりです。

  1. 相手は企業ではなく個人

大手の企業や国営企業が相手の場合、企業対企業の連携を期待しますが、ベトナム企業はあくまで個人の集合体です。例えベトナム企業側の代表の承認を得ていても、活動するのは担当者個人で、そのベトナム人の人脈や力量に成否の全てがかかります。他の従業員は見向きもしませんし、協力もしません。合弁先が有力企業を顧客に持っていても、別の従業員の担当であれば、まったく関係のない先と同じです。

  1. 契約書もあてにはならない

ベトナム企業も外国企業ですから契約書の作成など、日本より一層慎重になるべきですが、知恵を絞って合意した契約書も法廷で勝訴となるまでは強制力はありません。ベトナム人は時勢を見て都度判断・行動をしますが、契約書の合意内容に沿っているかどうかなど気にもしません。また、来るものは拒まずで契約しますが、都度儲け話があれば優先順位は瞬く間に変わり、契約はしてもまったく行動に移されないこともあります。

 

□ おんぶに、抱っこに、肩車

ベトナム企業との付き合い方で良く言われるのが、「おんぶに、抱っこに、肩車」という言葉です。対等のビジネスパートナとして合弁・提携の合意を取り付けても、それに甘んじてはいけません。全て自分たちで成し遂げるつもりで取り組む必要があります。

  1. 合弁・提携先への期待を限定する

合弁や提携は避けられれば避けたいところですが、独資での参入規制や許可の取得などのため、合弁や提携を避けられない場合もあります。その場合でも、ライセンスや許可の取得のためと割り切り、それ以上の期待を持たないことです。特に実績や経験、人脈といった形のない資産はあてにはできません。

  1. 全て自分たちでやるつもりで

「ベトナムのことは良くわからないので合弁先に任せたい」と期待しがちですが、蓋をあければ物事が進まない、合意した通りに進んでいない、などはよくあることです。初めから合弁・提携先に期待せず、体制を組んで自分たちだけで成し遂げるつもりで取り組むことです。ベトナムでの仕事の仕方など、努力すれば1年で概ねわかります。

  1. 相手に花を持たせる

形式や対面を重んじるベトナムでは「失敗」はありえません。合弁・提携したら必ず成功すること、最悪でも先方に花を持たせて「失敗した」と世間に見られないように気遣う必要があります。その意味でも実験的な取り組みにベトナム企業を主体に巻き込んで進めることはお勧めしません。