本年で筆者の在越年数も10年目を迎えました。自身が年を増したせいでもありましょうが、最近では20代の若手の日本人がベトナムで活躍する姿も目に付くようになりました。本コラムの読者のほとんどは本社から出向の駐在員の方々と存じますが、日本を離れてベトナムで職を探そうという方々に向けてエールを送りたいと思います。

 

□活気のあるベトナムで働きたい

現地採用を目指してベトナムで仕事探しをする日本人の方へ「なぜベトナムで働きたいのですか?」と問うと、よくいただくのが「ベトナムは活気があり、成長も期待される」という回答です。

確かに、失われた20年が30年に延長しそうな日本に比べれば、バイクが縦横無尽に走り回り、道端の路上店が賑わい、次々に新しいビルが誕生するベトナムは活気に溢れているように見えるのでしょう。

2015年のGDP成長率は6.5%とも報じられ、先の共産党大会では2020年まで平均で6.5~7.0%の経済成長率を目標に掲げるなど、0.9%の成長で嬉々とする日本と比べても、ベトナムは目覚ましい発展を遂げています。

しかしながら、ベトナムの活況も先進国である日本から来る異邦人は冷静に状況を見つめる必要があります。

一人当たりGDPが2,100ドル程度のベトナムにて、6.5%のGDP成長率は一人当たりでみれば、137ドル/人/年のGDP増となります。一方で円安のもと一人当たりGDPが36,000ドル程度となっている日本は0.9%の成長で、374ドル/人/年のGDP増です。すなわち絶対額でみれば一人当たりのGDP増は日本の方が200ドル以上高くなります。つまり、ベトナムの活況の恩恵はベトナム人に取っては著しい成果となりますが、在越の日本人にとっては活況のわりに恩恵が少ないと感じてしまうということです。

 

□ベトナム人が競争相手

本コラムの執筆とあわせて、ハノイ市やホーチミン市で講演する機会も増え、特にベトナム人材の特質についてよく話をさせていただいております。講演の中で最近よくご意見をいただくのは、「ベトナム人材にも課題はあるが、日本人も似たりよったりだよ」という声で、筆者も大いに賛同するところです。

ただでさえ海外志向が薄れている日本で、若手日本人材がやる気と期待を糧に飛び込んでくるのは素晴らしいことですが、ベトナムでは同世代のベトナム人材が競争相手として待っているということを念頭に置く必要があります。

途上国にありがちな大卒者の人余り状況にあるベトナムでは新卒者はまだ230ドル程度で雇用できます。一方で若手とはいえ日本人材を採用するとなると、20代前半でも1500ドル程度の給与は支給しないとベトナム人化していない外国人が生活できる水準が満たせません。つまり、経営者の視点からは日本人材には必然的に5倍以上の生産性もしくは能力が求を求めてしまうということです。国が発展途上なら人材も発展途上のベトナムでは、日本語以外でも日本人材が優位に立てる場面は豊富にあり、若手であれ日本人材にはベトナム人材への手本となることが期待されます。

ところが、日本的な仕事の仕方が確立していないうちにベトナムに飛び出してしまった日本人材はベトナム人材と同じようにホウレンソウや仕事の段取り組みなどの課題を抱えています。ともすれば、日本企業で経験を積んだベトナム人材からは「あの日本人は仕事ができない」と指摘を受けてしまうことさえあります。

ベトナムでは日本語人材も増え、単に日本語を強みにするだけでは、ハングリー精神に富み・日本的サービスを心得たベトナム日本語人材には歯が立たなくなってきています。

 

□手に職をつけて途上国人材との競争に臨みましょう

語学や経理、機械工学など、ベトナム人材は大学での専攻との関連で職業を選ぶことが多いです。

血縁や地縁に頼らずに出世を試みる人たちは専門性を頼りにするということでしょうか。自らの専門性が磨ける職場を選び、貪欲に吸収していくベトナム人材は未成熟な部分はあるものの成長スピードは速いです。

日本を飛び出す若手日本人材の競争相手はこうしたベトナム人たちです。やる気や人柄だけでは、実利的・現実的なベトナム人材には太刀打ちできません。

ベトナムではマイノリティの日本人ですから、ことさら自身が日本人であることを自覚させられ、またベトナム人は筆者を日本人として期待します。外国人には優しいベトナム人材に甘えず、日本人としての強み、自身の得意技に磨きをかけ、ベトナム人材との競争に臨んでほしいとエールを送ります。