「グローバル人材」という言葉が広く使われるようになって久しいですが、いわゆる「バズワード(定義が曖昧な専門用語)」のため議論が錯綜している感が否めません。ベトナムというローカルで仕事をするようになり、益々「グローバル人材」の議論に対する違和感が増すようになりました。たまさか直近にて「日本はグローバル人材の育成を強化しなければいけない」といった話題に出会い、筆者なりに整理をしてみたいと思い立ちました。

 

  • グローバル人材って、誰のこと?

「グローバル人材」に関する議論を散見するに、議論の対象者は様々です。「国際機関で働く日本人」や「日本企業の海外拠点で活躍する日本人」、「多様な国籍からなる部下を率いる日本人」「海外から日本へ留学する外国人」、「帰国子女」、「外国資本の企業で活躍する日本人」、「海外企業との橋渡しができる日本人」「世界的に著名な日本人」など各組織・団体や個人がそれぞれが求めるグローバル人材を定義している状況です。

さすがにまとめようがなくなったためと思いますが、内閣配下のグローバル人材育成推進委員会における2012年時点での定義は「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」というスーパー日本人をグローバル人材として定義するに至っています。

議論が錯綜する中で、「グローバル化に向けて、英語を社内の公用語にする」と短絡的に表明する企業が出てきてしまっているのが悲しい現状です。

 

  • 企業が求めるのは「企業内グローカル人材」?

国際化が進む社会の中で様々な視点から国際化に対応できる人材を求める声が高まるのは必然的と思いますが、それらの異なる人材を「グローバル人材」と一括りにしてしまっているのが元凶でしょう。

一方で、海外(ベトナム)で進出日系企業を相手に活動している筆者としては、企業に最も期待されているのは有能な海外拠点管理者の育成と日本国内の外国人材や海外拠点のローカル人材を社員として受け入れる制度整備と感じます。特に海外拠点管理者については、国際的な視野を持ちながらもアウェイであるローカルの地で現地化・自立化を進める、いわば「企業内グローカル人材」が求められているように思います。

企業が国際化する中で、中核拠点や研究開発拠点などにて、各国の機能代表者を束ねるリーダとなる日本人材育成の声もありますが、その必要性に駆られる企業はまだ少数のようです。アラン・ラグマン教授の2004年の調査によれば、フォーチュン500社のうち地域別売り上げのわかる350社を対象に調査をしたところ、北米・欧州・アジアの各地域にて、自地域の売り上げが5割以下、他の2地域からの売り上げがそれぞれ2割以上ある会社は9社しかなかったそうです。また、2008年に同調査をフォーチュン500社に名を連ねる日系企業64社に対して行ったところ、3社しかなかったとあります。

 

  • 企業内グローカル人材の要件

先のグローバル人材育成推進会議によれば、グローバル人材に求められる要素は「I:語学力・コミュニケーション能力」「II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」「III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」だそうです。「日本人としてのアイデンティティ」は比較的特長的と思われますが、他は日本国内でも同様に求められる要素に感じます。日本で活躍できない人材が海外で花開くことはまれで、やはり海外でも日本でも求められる要素に大きな違いはないものと思います。

ある方から、「何を食べても腹を壊さないことと、ストレスに強い事が駐在員の条件」という話を伺い、ごもっともと思いました。筆者が付け加えるならば、1.(英語よりも)現地の言葉や文化を学ぶこと、2.自社の仕事の仕方や価値観をまったく無知の人に対して論理的に説明できること、3.ローカル人材に賞賛される一芸に秀でることでしょうか。

日本の国際化についてはこれからも議論が続くものと思いますが、的を絞った議論がされていくことを期待します。