豊富な若年労働者や賃金水準の相対的な低さを魅力にベトナムに進出したものの、中国の6割程度とも言われる生産性や未成熟な社会インフラ・人材に悩まされ、ともすれば日々の生産・受注の達成で手一杯となっている会社もあるやも知れません。知らぬ間に、部門間の言い争いが絶えない、新入社員から辞めていくなどの問題が生じ、ご相談いただくことがありますが、問題の根源が組織風土に根ざしていると見られることも良くあります。

 

  • ほっておけば必然的にベトナム流に

当たり前のことですが、ここベトナムは日本とは異なります。日本ならば奇異に映るバイクの逆走も、食べカスを床に捨てる習慣も、道を間違っても謝らないタクシーの運転手もここベトナムでは日常的な光景です。

若い人から徐々に垢抜けて来ていますが、会社の中核を担う30代以降は伝統的な価値観が染みついているケースが多く、当然のことながら特に何もしなければ会社のベトナム人材はベトナム流に振る舞います。

  • ベトナム組織は雇われ人の集まり

ベトナム組織は職務ごとに個別に採用されるケースが一般的で、決まった内部昇進の手続きがないことが多く、上司・部下と言っても日本のように主従・徒弟関係があるわけではなく、役割が違うのみです。従って、部下を育てるといった発想はもとよりなく、部下の失敗も報告はすれど、注意はしません。部下の失敗は部下の失敗、あくまで職務を担当する個人として責任を取ります。

  • 他人の畑には踏み込まない

上記から、各人の役割はむしろ明確に分けることを好み、他人の役割に口を挟むことはご法度です。他部署と関わり合うことを基本的には避けますし、ひとたび衝突が起きると激しくぶつかり合います。また、職務を果たす上では比較的自由に行動でき、職権を活用して血縁者を採用・当用したり、私腹を肥やしたとしても職務が全うされる限りはある程度目をつぶってもらえます。

  • ベトナム人が3人で穴に落ちると助からない

上記はベトナム人の特質を皮肉る冗談ですが、察しのとおり、互いに足を引っ張り合うということです。人との軋轢を嫌うゆえか、目立つこと、競争し合う(ぶつかり合う)ことを避ける伝統的なベトナム人材は水面下で互いの足を引っ張り合います。自身が競争相手より抜きんでるというよりは競争相手の失脚を誘って、それとなく遠慮深げに抜擢されることを好むようです。

こうした特質を理解しているが故に伝統的なベトナム人材は慎重で、私情を明かさず、他人に弱みをみせない、または弱みを指摘されたと感じると徹底的に守りに入ります。

 

こうした組織のベトナム流が浸透していても、皆忠実に職務は果たそうとしますので、事業が堅調に進んでいる限りは問題は表面化しません。しかし、大幅な組織の改訂や役割の見直し、組織横断的な取り組みの推進、ベトナム人内派閥が強くなるなどが生じると途端に問題が表面化し、問題が表面化した際には既に手遅れです。風土の要となっているのは一部の従業員ですが、同時に事業の要となっていることも多く、心変わりは期待すべくもなく、また一掃するのは大仕事となります。

 

  • 組織風土つくりも進めましょう

ベトナム人材が必ずしもベトナム流風土を好んでいるというわけではなく、疎ましく思っている人も多くいます。しかしながら、意図して風土つくりを進めなければ自然には日本人にとって当たり前の風土はできません。

  • 期待する風土・行動を明言する

ほとんどの会社では経営理念などを掲示していますが、壁の花になっているケースも少なくありません。日本的な価値観が共有されない中で「単語」だけが共有されても、記憶にとどまらないだけならまだしも誤解を生じるケースもあります。「人は財産」といった標語も「だから僕ら従業員は大切にされるべきだ」と解されたりもします。

面倒ですが、重要な「ことば」については、その由来や意味、目的などをできるだけ具体的に説明することをお勧めします。「上司の指導を吸収し、自身の顧客価値を高める」など、できればそれぞれの「ことば」が期待する行動を具体的に落し込み、社の行動規範とすることが好ましいです。

  • 日本人が手本となる

日本的な風土の伝道師は日本人です。日本に留学した程度のベトナム人材には価値観の伝道は期待できません。日本人は自らが襟を正し、身を引き締めるとともに、「おはよう、お疲れ様」の挨拶、ゴミを拾う、否定せずに聞く、要点を始めに話すなど、ベトナム人材にも見習ってほしい行動をややおおげさにも取って欲しいと思います。会議で発言をしない、問題に正面から取り組まないなど、ベトナム人材がすぐにも真似をしそうな振る舞いは厳に慎むべきでしょう。

  • 風土を根付かせる活動を仕組み化する

経理理念の流布を委員会活動として推進されている会社もあります。人材のありたい姿をベースに、風土を築き高める活動をベトナム人材が主体となって推進するものです。ともすればチームビルディングを目的とした社員旅行も「慰安旅行」と捉えられがちですし、成長を期待する社内研修も「福利厚生」と捉えたりします。各活動の目的を十分に共有して進めましょう。