各社には既に2018年の方針を固めて、新たな取り組みを始められているところでしょうか。3月期の会社にはまさにこれから方針の展開を進められる段階かと思います。

年々ベトナム人マネージャに主体的に部門方針を掲げるよう促す動きが増しており、弊社でも部門方針の策定講座を先に開催しました。少し気になった、駐在員の方にも留意していただきたいポイントがありましたので、共有させていただきます。

 

  • 文章は「見る」のがベトナム流

「わかっていないのに、『わかった、わかった』という」は、良くいただくベトナム人材に関するコメントです。なるほど文章についても同様で、文章は「読んで」おらず、「見て」いるだけで、書かれている言葉がわかれば「わかった」と応えます。あたかも、タバコを吸いながら「喫煙禁止」の看板を見ているようなものでしょうか。書かれている言葉はわかっているが、それが何を意図するのか、どのように行動に反映すべきか、頭の中で咀嚼されていないように感じます。

 

  • 言葉に込められた意図が訳されているか、確認しましょう

弊職も自社の方針を打ち出すにあたっては、短い言葉で思いが伝わるよう、言葉を選びます。多くの会社では日本語で作成した思いのこもった会社方針をベトナム語に訳して従業員と共有されているかと思いますが、残念ながら思いの伝わらないベトナム語となっている状況がよく見られます。

翻訳するベトナム人担当者は日本語にも長けていると思われますが、残念ながらベトナム人材はベトナム人材、書かれた方針書を「見て」はいますが、「読んで」はいないようです。「見た」ままに翻訳をしてしまうため、意図の伝わらないベトナム語を使ってしまいます。

例えば、「Challenge for next」という方針であれば、「会社を次の段階に発展させるべく、皆が新しい取り組みに挑戦しよう」という思いが読み取れます。ところが、これを「Tiep tuc(継続する)thu thach(挑戦)」と訳してしまうと、“これまで通り”挑戦を継続するという文となってしまい、従業員に新しい取り組みを促す意図が伝わらなくなってしまいます。正しくは「Thu thach(挑戦)tiep theo(次の)」のように訳すべきかと思います。

言葉の意図を読んで、ベトナム語に訳すのは容易でありませんが、会社方針のように言葉を選んで作成された文章は、意図が訳されないと意味をなさなくなります。翻訳者に翻訳文の意味を日本語で説明してもらう、もしくは他の翻訳者に訳されたベトナム語を逆に日本語に訳してもらうなどして、意図通りの文面になっているかの確認をお勧めします。

 

  • 思いのこもった言葉は、説明を加えましょう

もう一つの共有したいポイントは、言葉にこもった思いを伝えましょう、という点です。方針の文章で「『ひとりひとり』が成長し…」という言葉が使われていたとします。ベトナム語では「tung nguoi tung nguoi(ひとりひとり)」となり、訳としては間違っていません。しかしながら、ベトナム人マネージャが策定する方針を見ると、「部下の…能力を高める」となっており、「ひとりひとり」に込められた思いが反映されていません。「ひとりひとり」という言葉には「各人が主体性を持って、自ら成長を志向する」という個々従業員の意識変革への期待がこめられていると読み取れますが、こうした言葉の裏にある思いを「読む」ことは苦手のようです。

「見れ」ど「読ま」ないベトナム人材の特性と、短歌・俳句のように隠喩などの手法を使って言葉に思いを込める日本人との間には大きな乖離があります。「仕事の質」や「進化」、「仕組み構築」「すぐやる」などなど、単にベトナム語に訳しただけでは字義通りの浅い理解にとどまる言葉が会社方針には多用されていると思います。思いの込められた言葉には注釈をつける、もしくは口頭でも言葉に込められた期待を具体的に説明するなどしないと容易には思いは伝わりません。

 

弊社の部門方針策定講座で、ベトナム人マネージャがまずつまずくのが、会社方針の理解です。すぐに数値目標や担当部門の施策に目が行ってしまい、目標や施策が目指すところの目的を見失った方針が策定されてしまいます。方針の理解とは言葉の裏にある思いを理解することであり、より深い考察力が必要となります。会社方針を読み聞かせるだけでなく、思いを共有することで一貫性のある方針の展開を進めましょう。