人材経営の指針や、人材のありたい姿、そしてありたい組織の姿を描いたうえで、具体的な人事制度の現地化に取り組む第一歩は等級の定義となります。人事制度の核となる人事評価や賃金・育成制度は等級に基づいて行われることから、等級定義は人事制度の柱とも言われます。

 

  • 従業員にキャリアパスを示す等級制度


等級制度とは何ぞやとひも解くと、多くは「従業員を区分・格付け・序列化する制度」など、ややわかりにくい説明となっています。等級制度の主要な活用目的から、等級制度は従業員のキャリアパス・従業員の社内での成長段階を示すものと捉えればわかりやすでしょう。スタッフは昇格しリーダとなり、そしてマネージャとなる、など従業員の成長段階を役職で示すのが適切であれば、そうした役職名が各等級名となります。

  

  • 業務の特性を鑑みて、従業員のキャリアパスを設計する

等級の典型的な型に、職務等級、能力等級、ミッション(役割)等級があると言われます。等級の型はいずれかを選ぶというものではなく、従業員のキャリア設計を行った結果が大きくは3つのパターンに分類されると言うものです。どのようなキャリアパスの描き方が自社の従業員の成長段階を示すのに良いかの参考として見れば良いでしょう。

職務等級は、従業員が担当する職務を持って、その成長段階を示す考え方です。機械等の保守に始まって、機械部品やジグの製作、機械自体の設計など、技術力の成長に応じて担当する職務が高度化していくキャリアを示す型となります。技術者や研究者などの専門職に属する従業員に典型的なキャリア設計となります。

ミッション(役割)等級は、従業員が担う職責を持って、その成長段階を示す考え方です。一般的には組織図に沿って、一般従業員 – 係長 – 課長 - 部長といったような職位により等級を定義します。専門能力もさることながら、組織管理能力の高度化を成長の指針とする等級の型となります。

能力(職能資格)等級は、職務や職位によらず、各従業員に共通的な職務遂行能力のレベルによって成長段階を示す考え方です。スタッフ・マネージャといった呼称を持つ場合もありますが、等級1・等級2・等級3といったような符号のみで表される場合もあります。プロジェクト型や異動が多く発生する業務特性のもとで、特定の職務や職位と紐付けずに、従業員の職務遂行能力レベルに応じて、配置を柔軟に進める場合に適用される等級の型となります。

ご覧のように、等級がどのような型に近くなるかは、従業員にどのようなキャリアパスを期待するかに依存します。業務特性に応じて、一つの会社内に複数のキャリアパス(等級制度)を適用することもあります。しかしながら、同一の従業員が複数のキャリアパスの選択肢のもとにあると、成長の方向性を見失うことにもなりませんので、業務特性が同じ組織グループ単位でキャリアパスの設計を進めることをお勧めします。

 

  • 上下等級との違いを明確にして、等級を定義する

従業員への成長の期待のもとにキャリアパスの設計ができた後は、各成長段階に相当する等級の定義を行います。

まま、等級定義に「部下を指導する。問題を解決する。」といった、複数成長段階に共通する期待が記載されていたり、「高度で複雑な業務を担う。課レベルの業務を遂行する。」といった曖昧な記載が見られます。等級制度は従業員のキャリアパスにおける成長段階を示すものですので、該当従業員にとって「何を実現すれば、次の段階に進めるのか」現等級と上位等級との違いが明確にわかることが求められます。

例えば、職務型の等級であれば、機械保守では基準に沿った点検ができれば良いですが、部品の製作には機械の動作原理や特性を理解していることが求められます。ミッション型の等級では、スタッフは自身の担当業務の成果に責任を負えば良いですが、リーダとなるには部下(他人)の成果にも責任を持つことが期待されます。能力型の等級では、初級の営業マンは顧客の要望に正しく応えることが求められますが、中級の営業マンには顧客の真の期待を把握して提案できる能力が期待されます。

このように、等級の定義に際しては、等級間の違いに着目し、できるだけ簡潔に期待される成長段階を表すことが重要となります。また各等級への期待の違いが昇格判断の物差しとなります。

 

等級数については6~10等級程度までと、あまり多くするべきでないとの指導が一般的です。しかしながら、スピード感の早いベトナムでは従業員が成長を実感できるよう、毎年昇格しても良いのではと感じます。等級間の違いは明確にする必要がありますが、毎年期待を高めることで成長を促すとともに、成長の見られない従業員の選別ができるようになります。